易経の先天図八卦の並びと陰陽魚太極図

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 易経の小成八卦に関連して二つの円形配置図(先天図と後天図)が伝わっている。本稿では、先天図と呼ばれている図について、八卦の並び順がどのようにして決まるのかについて考え、その過程から陰陽魚太極図の成り立ちを読み解く。  まず、小成八卦を二項目ずつ取り上げて対照する記述が説卦伝に見られる事に注目する。
説卦伝第三章: 天地くらいを定め、山沢さんたく気を通じ、雷風らいふうせまり、水火すいかいとわず、八卦相まじわる。おうを数える者はじゆんにして、らいを知る者は逆なり、ゆえに易は逆数なり。
 これらの対(陰陽が反転している卦のペア:対偶)になる卦を点対称性を重視して円形に配置すると図が得られる。この図は先天図の並びに倣って配置しているが、説卦伝の記述内では、相対する卦のペアだけが決まっているだけであり、位置と並び順は、何も決まっていない。方位との関係もまだ決まっているわけではない。
先天図と同じ配置図。方位付き。

図1: 先天図と同じ配置図。方位付き。

 「乾は天なり、坤は地なり」と説卦伝に記述されているので、図において、乾を上、坤を下に配置することは順当であろう。次に、兌・離・震を、この順に並べるのは妥当であろうか。対応して、巽・坎・艮をこの順に配置することも妥当であろうか。更に、その並び方を左回りにするか、右回りにするか、右円側に配置するか、左円側に配置するかに関しても、ここまでの議論で決まっているわけではない。  本節では、卦の並び順について詳しく考えてみよう。その為に、八卦の生成の過程をおさらいしよう。  太極から両儀(陰陽)が生まれ、次に四象が作られる。四象とは陽爻と陰爻が交錯して作る四種類の組み合わせを云う。  四象を作るには、まず陽爻二本を横方向に並べて置き、その左に陰爻二本を横方向に並べて置く。その上に、陽陰陽陰の順で四本を置くと四象が出来る。この作り方(成立ち)が示すように、上下に並ぶ爻を呼ぶ場合には、下から数えるのが、易の数え方となる。  四象を二つ並べ置き、その上に陽陰の順に第三爻を重ね置けば、自然な並びで八卦が出来る。 これを小成の卦(八卦:けん しん そん かん ごん こんの八種類)という。三画卦ともいう。以上の内容を図に図示した(八卦の三爻の作りがわかりやすいように、例えば両儀の場所の陽爻は四本として表記した)。この図は、伏儀八卦次序(原本周易本義)として伝わる図と同じである。  以上より、陰陽の爻を、最も自然に陽陰の順に三層に配列すれば、八卦が得られ、その並び順(卦の序列)まで定まることがわかる。
太極から八卦への生成過程

図2: 太極から八卦への生成過程。伏儀八卦次序(原本周易本義)として伝わる図と同じである。

小成八卦に関してここまでに得られた情報をまとめると、以下の如し。  残りの六卦の並びを決めるために、以下の思考実験を行う。 ◯思考実験  議論に耐えるような卦と卦との親近性指標はないかということで、図を思い起こそう。小成八卦の成り立ちは、図2を上下逆にみれば血縁関係を表す系図と似ている。そこで「血の濃さ」という重みを爻の位につけてみる。生成は三段階なので、三爻の位置に下から重み付きの値4・2・1を割り当てる。更に陰陽の対称性を入れて、陰爻には負の符号を付ける。乾を例にすれば、乾の初爻は4、二爻は2、三爻は1で、乾の合計点は7となる。兌の初爻は4、二爻は2、三爻は-1で、兌の合計点は5となる。遺伝にならって考えれば、一つの卦が表す数字は、乾と坤の要素(血)をどれだけ持っているかの目安と考えられよう。説卦伝に「しん一索いつさくして男を得たり」と記述されているので、血縁関係に類似を求めるのは妥当な方法といえる。以上をまとめると次のようになる。
陽初爻の重み付き値 4:両儀生まれ、 陽二爻の重み付き値 2:四象生まれ、 陽三爻の重み付き値 1、 と定義する。陰爻はマイナスとする。 このようにすれば、八卦の値は次の如く定まる。 乾 ☰ 7 兌 ☱ 5 離 ☲ 3 震 ☳ 1 巽 ☴ -1 坎 ☵ -3 艮 ☶ -5 坤 ☷ -7
 このように、卦を構成する三爻の位が持つ遺伝的な重みを取り入れて、各卦の指標を求めれば、その数字は、乾坤からの位置を示す指標となる事がわかる。従って、八卦を半分に分ける場合に、一乾・二兌・三離・四震の父方の並びと五巽・六坎・七艮・八坤の母方の並びの二つに分け、並び順をこのまま保持する事は、乾坤からの遺伝的な親近性を尺度としてみる場合には、自然な並びと云える。しかし、乾を上にして坤を下にする配置を仮定して八卦を円周上に配置する場合、乾坤につながる残りの三卦のどちらを左半円上に配置するかについては、ここまでの考察範囲では決められない。  以上の思考実験を反映させた結果を図3に示す。卦を示す円の大きさは、乾と坤からの親近性に応じて変化させている。この図では、円の左側に乾に近い卦を配置した。ここまでの段階では、逆周りの配置法も可能である。並び順を変えていないので、「山沢さんたく雷風らいふう水火すいか」という対称性も保持される形で、円形配置の上に表示される。  乾・兌・離・震を表す赤丸の一群と、坤・艮・坎・巽を表す灰色丸の一群の境界を、円形配置を考慮して緩やかなデザイン性あるように定めると、いわゆる陰陽魚太極図に近づく。
八卦の親近性を考慮した円形配置図

図3: 八卦の親近性を考慮した円形配置図。卦を示す円の大きさは、乾と坤からの親近性に応じて変化させている。兌離は陰卦。坎艮は陽卦。卦が表す面積を考えて、乾系(父方)と坤系(母方)のグループの間に曲線の境界を描けば、自然に陰陽魚太極図に近づく。

 左右の配置を決めるためには、卦象と方位とを関連させる必要がある。逆に言えば、古くから伝わる先天図の配置には、その配置が意識されてなされているとすれば、方位は配置には見えないけれども仮定されている事になる。  方位の割り当てについて考える。方位を当てはめるには卦象との関係性を利用する。  以上で卦の配置と方位が全て決まった。図1に示した八卦の先天図配置とその方位が定まった事になる。なお、先天図の方位は、易書の中で使用される事はなく、易占においても使用されないと記されている。  説卦伝の八卦の方位の記述を基礎にした図が後天図といわれるもので、それと同じ並びの円形配置図を図に示す。 方位に関連する指標を示す。
震 東  日出 春 春分 巽 東南      立夏 離 南  正午 夏 夏至 坤 西南      立秋 兌 西  日没 秋 秋分 乾 西北      立冬 坎 北  夜中 冬 冬至 艮 東北      立春
後天図と同じ配置図。方位付き。易書で使われるのは、この図。

図4: 後天図と同じ配置図。方位付き。易経で使われる方位は、この図。

参考文献 1. 加藤湖山、『易経ノート』、Apple Books Store、2021年。 易経・太極拳に関係する著者のweb: 太極拳釈名と易 王宗岳「太極拳論」を読む(2021年10月26日) 王宗岳「太極拳論」等の異種バージョンの誤謬の顛末 武禹襄「太極拳解」を読む 武禹襄「十三勢説略」を読む 「十三勢行功歌」を読む 本稿に関するご意見質問等はメイルしてくだされば有難く存じます。    2021年    著者:加藤湖山    e-mail: kozan27ho@gmail.com    Copyright (C) 2021- K. Kato, All rights reserved.