226事件とプリゴジンの乱

御来訪有難うございます。 2023年9月  トップ「湖山のきょう底」へ戻る

 2023年6月23日にロシアで「プリゴジンの乱」が起きた。民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジンが武装蜂起して、モスクワを目指して進軍を始めたのである。モスクワで大統領のプーチンに会って、掲げる要求を実現する事が目的と伝わる。プーチンに対する反乱ではなく正義の行進と云い、主としてロシア国軍に対する不満が動機と云う。6月25日にプリゴジンはモスクワの手前200kmで反転撤退して、乱の目的は完遂されなかった。それまでにロシア国軍との戦闘が生じたとも伝わる。2ヶ月後の8月23日にプリゴジンが乗るプライベートジェット機は、モスクワからペテルブルクへ向かう途中で墜落して、プリゴジンとワグネルの幹部が死亡した。  この「プリゴジンの乱」の勃発の報に接して想起したのは、1936年2月26日に生じた「226事件」であり、モスクワ近くでの反転撤退の報に接して予想したのは、乱の失敗と首謀者の末路であった。  以下に、二つの乱の特徴的な事柄の比較表をまとめた。
項目プリゴジンの乱226事件
年月日2023年6月23日1936年2月26日
直訴相手大統領天皇 
反乱軍ワグネル第一・近衛師団の一部 
首謀者プリゴジン青年将校 
目的国軍の粛清君側の奸の成敗による維新の実現 
 ショイグ、ゲラシモフ 
内容南部軍管区司令部占拠首相官邸等占拠 
モスクワへの進軍岡田首相・鈴木侍従長・元老牧野襲撃 
国軍との少しの戦闘斎藤内大臣・高橋大蔵大臣・渡辺教育総監殺害 
軍内協力者スロビキン大将他真崎甚三郎大将他 
元首の認識反乱した裏切り者反乱した逆賊 
説得ルカシェンコからの電話奉勅命令と逆賊のビラ等 
撤退・投降2023年6月25日1936年2月29日 
その後の首謀者ジェット機の墜落死秘密軍法会議・銃殺 
 2023年8月23日1936年7月12日 
 1937年8月19日 
その後の兵団解体して国軍へ吸収満州派遣で戦死者多数 
その後の軍内協力者解任無罪 
〇プリゴジンと青年将校は、「元首は自分の意図を理解してくれる」と思っている。だから、元首を標的にしない。元首が任命したにもかかわらず、国(軍)を悪くしている(と彼らが思う)高官を標的にする。 〇ワグネルは民間軍事会社と称していたが、ロシア政府から資金援助を受け、大統領と緊密な関係を持つ事が明らかにされた。それゆえこそであろうか、元首は躊躇なく叛乱と認定する。 〇軍の上層部に協力者がいる。226の場合には事前に扇動していたが、天皇の断固たる意向を知って、保身のためにその日のうちに豹変する。 〇軍内に派閥争いがあり、その一方の流れを汲む。事件後の日本では、反対派閥の天下となり、日中戦争、太平洋戦争へと突き進む。 参考文献:二・二六事件関連
  1. 飯島幡司、『昭和維新』、朝日新聞社、1942年。
  2. 『改造』、1951年2月号「二・二六事件の謎を解く」、改造社。
  3. 原田熊雄、『西園寺公と政局 第五巻』、岩波書店、1951年。
  4. 遠山茂樹・今井清一・藤原彰、『昭和史』、岩波新書、1959年。
  5. 『鈴木貫太郎傳』、記編纂委員会、1960年。
  6. 迫水久常、『機関銃下の首相官邸』、恒文社、1964年。
  7. 高橋正衛、『二・二六事件』、中公新書、1965年。
  8. 木戸日記研究会、『木戸幸一日記上』、東京大学出版会、1966年。
  9. 木戸日記研究会、『木戸幸一関係文書』、東京大学出版会、1966年。
  10. 大谷敬二郎、『昭和憲兵史』、みすず書房、1966年。
  11. 大谷敬二郎、『二・二六事件の謎』、柏書房、1967年。
  12. 鈴木一、『鈴木貫太郎自伝』、時事通信社、1968年。
  13. 東京12チャンネル報道部、『証言私の昭和史2』、学藝書林、1969年。
  14. 山口富永、『昭和史の証言 真崎甚三郎人その思想』、政界公論社、1970年。
  15. 大蔵栄一、『二・二六事件への挽歌』、読売新聞社、1971年。
  16. G.M.ウィルソン、『北一輝と日本の近代』、勁草書房、1971年。
  17. 高宮太平、『順逆の昭和史』、原書房、1971年。
  18. 矢次一夫、『昭和動乱私史 上』、経済往来社、1971年。
  19. 『二・二六事件秘録』、小学館、1971年。
  20. 河野司、『二・二六事件ーー獄中手記・遺書』、河出書房新社、1972年。
  21. 永田鉄山刊行会、『秘録永田鉄山』、芙蓉書房、1972年。
  22. 大谷敬二郎、『二・二六事件』、図書出版社、1973年。
  23. 滝村隆一、『北一輝 日本の国家社会主義』、勁草書房、1973年。
  24. 小沼正、『一殺多生』、読売新聞社、1974年。
  25. ねずまさし、『天皇と昭和史』、三一書房、1974年。
  26. 松沢哲成・鈴木正節、『二・二六と青年将校』、三一書房、1975年。
  27. 澤地久枝、『暗い暦ーー二・二六事件以後と武藤章』、エルム、1975年。
  28. 澤地久枝、『妻たちの二・二六事件』、中公文庫、1975年。
  29. 芦沢紀之、『暁の戒厳令 安藤大尉とその死』、芙蓉書房、1975年。
  30. 粟屋憲太郎編ドキュメント昭和史2、『満州事変と二・二六』、平凡社、1975年。
  31. 『現代のエスプリ』No.92、1975年3月号「二・二六事件」、至文堂。
  32. 河野司、『私の二・二六事件』、河出書房新社、1976年。
  33. 木下半治、『日本右翼の研究』、現代評論社、1977年。
  34. 大江志乃夫、『戒厳令』、岩波新書、1978年。
  35. 松本清張、『昭和史発掘』、文春文庫、1978年。
  36. 松本清張、『北一輝論』、講談社、1979年。
  37. 矢次一夫、『政変昭和秘史(上)』、サンケイ出版、1979年。
  38. 上法快男、『陸軍省軍務局』、芙蓉書房、1979年。
  39. NHK取材班、『ー二・二六事件秘録ー戒厳指令「交信ヲ傍受セヨ』、日本放送出版協会、1980年。
  40. 香椎研一、『香椎戒厳司令官手記秘録二・二六事件』、永田書房、1980年。
  41. 黒崎貞明、『恋闕』、日本工業新聞社、1980年。
  42. 桐生悠々、『桐生悠々反軍論集』、新泉社、1980年。
  43. 新編埼玉県史別冊、『二・二六事件と郷土兵』、埼玉県史刊行協力会、1981年。
  44. 小林友一、『同期の雪ー林八郎少尉の青春ー』、日本工業新聞社、1981年。
  45. 勝田龍夫、『重臣たちの昭和史』、文藝春秋、1981年。
  46. 新編埼玉県史別冊、『雪未だ降りやまず』、埼玉県史刊行協力会、1982年。
  47. 河野司、『ある遺族の二・二六事件』、河出書房新社、1982年。
  48. 飯尾憲士、『自決ーー森近衛師団長斬殺事件ーー』、河出書房新社、1982年。
  49. 江口圭一、『昭和の歴史第4巻十五年戦争の開幕』、小学館、1982年。
  50. 河原敏明、『天皇裕仁の昭和史』、文藝春秋、1983年。
  51. 田々宮英太郎、『二・二六叛乱』、雄山閣、1983年。
  52. 河野司、『二・二六事件秘話』、河出書房新社、1983年。
  53. 須賀長市、『二・二六事件の兵隊』、恒文社、1983年。
  54. 今西英造、『昭和陸軍派閥抗争史』、伝統と現代社、1983年。
  55. 須山幸雄、『二・二六青春群像』、芙蓉書房、1984年。
  56. 秦郁彦、『裕仁天皇五つの決断』、講談社、1984年。
  57. 歩三戦友会、『二・二六事件その後の兵士たち』、さきたま出版会、1985年。
  58. 田中隆吉、『日本軍閥暗闘史』、長崎出版株式会社、1985年。
  59. 高橋治郎、『一青年将校』、光人社、1986年。
  60. 松本清張、『二・二六事件』、文藝春秋、1986年。
  61. 奥田鑛一郎、『二・二六の礎 安藤輝三』、芙蓉書房、1987年。
  62. 池田俊彦、『生きている二・二六』、文藝春秋、1987年。
  63. 澤地久枝、『雪はよごれていた』、日本放送出版協会、1988年。
  64. 本庄繁、『本庄日記』、原書房、1989年。
  65. 原秀男・澤地久枝・匂坂哲郎、『検察秘録 二・二六事件』(1)ー(4)、角川書店、1989年。
  66. 『目撃者が語る昭和史第四巻 2・26事件』、新人物往来社、1989年。
  67. もりたなるお、『銃殺』、講談社、1990年。
  68. 『入江相政日記』、朝日新聞社、1990年。
  69. 広田弘毅伝記刊行会、『広田弘毅』、葦書房、1992年。
  70. 田々宮英太郎、『検索!二・二六事件』、雄山閣出版、1993年。
  71. 中村隆英、『昭和史 I』、東洋経済新報社、1993年。
  72. 秦郁彦、『昭和史の謎を追う』、文藝春秋、1993年。
  73. 伊藤隆・北博昭、『二・二六事件 判決と証拠』、朝日新聞社、1995年。
  74. 高松宮宣仁親王、『高松宮日記第二巻』、中央公論舎、1995年。
  75. 別冊歴史読本、『2・26事件と昭和維新』、新人物往来社、1997年。
  76. 岡田貞寛、『父と私の二・二六事件』、光人社、1998年。
  77. 矢部俊彦、『二・二六 天皇裕仁と北一輝』、元就出版社、2000年。
  78. 北博昭、『二・二六事件全検証』、雄山閣出版、2003年。
  79. 半藤一利、『昭和史』、平凡社、2004年。
  80. 宮内庁、『昭和天皇実録第七』、東京書籍株式会社、2016年。
本稿に関するご意見質問等はメイルしてくだされば有難く存じます。    2023年    著者:加藤湖山    e-mail: kozan27ho@gmail.com    Copyright (C) 2021- K. Kato, All rights reserved.