易経:小人を決し去る:沢天夬
御来訪有難うございます。 2022年4月12日
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21世紀になって昔ながらの大規模侵攻(戦争)が起こりました。易経の中に君子と小人は度々登場します。「沢天夬」は、君子と小人の戦いを描いています。筆者は電子本の中にその卦についての解説を載せていますので、ここに引用掲載致します。
第32章 沢天夬:小人を決し去る
沢天夬は四十三番目の卦です。
夬は決と同じで、ものの勢いが極まる所までいき、その片を一気に付けるという意です。
消長十二卦の一つで、純陰の
坤為地 ䷁ から陽が
浸み
長じて、
→ 地雷復 ䷗
→ 地沢臨 ䷒
→ 地天泰 ䷊
→ 雷天大壮 ䷡
→ 沢天夬 ䷪ に至ります。
五陽進長して一陰を消し去る象、五人の君子が一人の小人を決し去る象である事が見て取れますね。
簡単に消し去ると言っても事は簡単ではなく、歴史は正義の君子が姦計を駆使する小人によって敗れ去る事も示しています。それ故に、夬の各爻は君子と小人の戦いをこと細かに描写しています。ここでは、最後に小人が敗れ去る時の爻辞を紹介しましょう。
上六。无號。終有凶。
上六は號ぶこと无かれ。終に凶有り。
【大意】
上六は陰柔居極。威権をほしいままにした小人で、一陰がまさに決し去られようとする卦の極に在る。大声で叫び泣き救いを求めても無駄であり、遂には滅亡して凶である。
象曰。无號之凶。終不可長也。
象に曰く、號ぶこと无きの凶は、終に長かる可からざるなり。
【大意】
「无號之凶」とは、その運命が長かろうはずがないという事である。
力足らずして徳に於いても欠けるところある小人が社会の高位に就いているのは正しくないし、又世を誤り、民を苦しめる基であるから、決し去るべきであると、易はみているようです。
〖小人を決し去ることの難しい理由と誅戮の方策〗
❍ 一陰の小人は上爻に位している。
❍ 巧言令色を以て深く九五の君に密比して、寵愛はなはだしき者。
❍ 城狐社鼠の者(君側の奸臣)にて、取り除きにくい。
❍ 小人の姦巧黠俐謀詐敏慧なることは、君子より余程勝れているので、威権をほしいままにして、そこに擦り寄る党は必ず広く多い。
❍ 小人の罪状をつぶさに王庭にあらわし披露して、その罪の次第をあまねく公明にすべし。
❍ 誠信の忠誠を以て同志の言葉を合わせて相集まり、連署して公所に告げ上り、これを誅戮すべし。
こうした解説を読むと、印象的なシーンが思い浮かびます。
それは、独逸第三帝国の絶頂期に総統が演説する場面です。こぶしをかざして鼓舞する総統に対して、片腕を挙げて歓喜熱狂する大衆。
そのシーンを遠方から見て、バスに乗り遅れるなとあわてて道を誤った人々がいる一方で、映画「独裁者」を作った方もいるのですね。
現代ではどうでしょうか。差別と分断の言動を続ける権力者に諂い擦り寄る方がいる一方で、ある距離を保って眺めている方々もいましたね。ある権力者は数年で決し去られました。
諛う小人はどうなるのでしょうか。山地剥に記されているように、「小人は家の屋根を剥ぎとられるごとく、居場所がなくなる」のかどうか。
次の言葉が決して大げさでない事を、最近のニュース報道から実感した方が多いのでは。
小人の姦巧黠俐謀詐敏慧なることは、君子より余程勝れているので、威権をほしいままにして、そこに擦り寄る党は必ず広く多い。
参考文献
加藤湖山、『易経逍遥』、Apple Books Store、2020年。
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2022年
著者:加藤湖山
e-mail: kozan27ho@gmail.com
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