下に示す図は、新型コロナによる致死率の推移である。日本、中国、韓国、そしてクルーズ船のデータを図示した(2020年3は18日まで)。出典は新型コロナウィルス感染世界マップ(日経)である。この図について説明する。
補足(3月31日):ここの論点は致死率の値について云々するのではなく、日本の値の大きさと不自然な振る舞いから、日本の致死率を算出するデータには、何かおかしい事があるという点にある。医療の良い日本の致死率3%は何か不自然であるということ。
下図は、中国の感染者データから得られる年代別の致死率である。出典は厚労省の「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」。データが少し古いので、全体の致死率は2.3%と記されているが、3月18日時点では、4.0%である。いずれにせよ、全体の傾向に変わりはない。
このデータを使って日本で予想される死亡者を推定してみる。中国のデータは全体致死率が2.3%だから、日本に当てはめる場合には補正が必要である。更に、この補正の時に、年代別人口を考慮しなければ正確にはならないが、ここでは概略が意味ある数字と考えて、その補正は省略する。計算のあらましは次の通り。
結果:推定全死亡者数は109万人となる。現在のコロナ対策は、感染数のピークをなだらかにする事を目的に行われている。ピークを下げる方策は、医療混乱によって余計な死亡者増加を防ぐ事が目的とされるが、特効薬とワクチンが出現しない場合には、少なく見積もって百万人を超える死亡者を前提としている事に、注目すべきである。感染ピークをなだらかにする事によって時間稼ぎが出来る事は確かであるが、その間に致死率の割合で亡くなるわけであり、この高い致死率は、日本の人口の半数近くの人々に、日常生活において定常的に脅威を与え続ける。従って、この数字を下げる事は不可避であると即座に諦める事は、あまりに早計であり無責任であると考える。
今後の対策シナリオを選択する場合のキーとなるのは、特効薬・ワクチン・短時間で感染の有無がわかる検査キットの三つと考えられる。特に、特効薬とワクチンの登場が早期に期待できる場合には、シナリオ3の効果はあまりは感じられない可能性がある。特効薬があれば、感染爆発が生じても、死者数を抑える事はできるし、その後のコロナはいわゆるインフルエンザと同等の病と見なされるであろう。ワクチンによって新たな感染は相当に減少する事が期待できる。
医師が必要と認める感染の有無検査を何の支障もなく迅速に行える医療環境は当たり前の事と思われる。早期発見早期治療は大原則であろう。世界の多くの国は検査拡大によって、重症予備群の早期発見と感染の拡大防止に努めている。短時間検査が可能となれば、検査は容易に迅速に行う事が出来る。シナリオ3の場合には、感染収束後の水際対策に有効であろう。
理由のひとつは、下図(出典:東京都感染症情報センター)を見れば明らかになる。これは、2015年以来の各週毎のインフルエンザの発生数を示している。横軸は週をあらわし、ゼロが年初めとなる。毎年繰り返される特徴として、正月を迎えてから二つ目の感染のピークがある。ところが、今年(赤い線)はどうであろう。例年とは全く様相がかわり、第二のピークは激減している。それまでの勢いから推定すれば、例年以上の大きなピークが存在すると予想されるところである。その兆候は正月始めの落ち込みから始まっている。激減の理由の一つとして、この時点あたりから、多くの日本の人々は中国からの報道に接して身構えたのではないかと推定される。第二のピークは滑らかでないので、そこには何らかの外乱(報道など)があったのではないかと推定される。この推定が事実ならば、世界のニュースに関心が高い日本の民度の高さを示しているのかもしれない。あるいは、温暖な冬という観点から全て説明できるのであろうか。蛇足だが、コロナ対策班のクラスター作戦がインフルエンザ激減に大きく寄与しているとは推定できない。
この図だけから、ピークの激減は行動パターンによるとして、日本国内がどの程度に用心したのかを評価してみよう。昨年と今年のふたつのピークを比較すれば、インフルエンザ感染率が十分の一程度に落ちる程度に、日本全体の行動様式が変化したと評価できる。従って、
保健所と感染研は、感染病対策の為に感染症について細かく調査して毎週レポートを出している。インフルエンザに関してもわかりやすいデータを図示化して公表している。次に示すのは、県別のインフルエンザ発生状況を示している。一週間ごとの推移がよくわかる。出典は国立感染症研究所感染症疫学センター。
最新のマップ:これで見ると、大阪、兵庫、愛知が目に付く。大阪府知事には専門云々から何か情報が伝わり、3月の連休直前に、知事は兵庫と往来しないようにとの要請を出しているが、専門の方は、まさかこのインフルエンザのデータを参考にしているわけではあるまいと思うが、なにしろ、判断の根拠が詳しく伝わらないので、なんとも判断しかねるところだ。
コロナがインフルエンザと同じ初期症状であるという特性がある事によって、保健所経由データの推移の細かな検討からコロナ感染状態の推定が可能であり、そのためには保健所経由のデータ蓄積が必要であるとの説明であれば、現行の検査の仕組みについて納得できる部分もないわけではない。現状の説明は、重症者を救う為と称して、実際には早期発見を遅らせてから検査を行う(ある場合には行わない)という愚とを犯し、市中を無発症あるいは軽症の感染者が出歩くという状況を加速させている。
あまり聞きなれない専門用語が賑やかなので少し補足する。 基本再生産数Rは、今後の感染が増加するか減少するかを決める重要な指標となる値と思えばよい。おかげで門外漢にもその予測の一端は垣間見得たが、そのような数理モデルの予測を実際の施策に応用するについては、いくつかの問題がありそうだ。 最も簡単な感染の数理モデルでは初期の状態においては、近似的に感染者数 I は解析的に簡単に求められる形になり、結果だけ示すと、
I(t)=I(0)exp(𝜆t)
t:時間、0 は初期
𝜆=𝛽S - 𝛾:初期成長率
S:初期の全感受性人口
𝛽:感染率
𝛾:隔離率
成長率𝜆は指数関数の肩に乗っているので、これが正ならば患者数は増加して、負ならば減少する。
この条件を書き直すと𝛽S - 𝛾>0 より
基本再生産数 R = 𝛽S/𝛾 とおいて
R > 1 が増大の条件となる。
書き直すと、𝜆=𝛾(R-1)。
予測計算をする場合に、基本再生産数Rは感染者数を予測するexp関数のべき𝜆に入っているので、わずかの誤差でも計算結果に大きな違いがあると思われる。初期のRの値は、患者数データを対数プロットすれば、その直線部分の傾きに関係する量として可視化できる。下図は典型的な国と東京都の感染者数を縦軸を対数として図示したものである。
この図の中で、国と国との比較は問題がないわけではないが、例えば、アメリカは増加途上にあり、イタリアは少し飽和への兆候があるとか、中国は飽和しており、韓国は飽和に近いとか、その程度は言える。
日本はどうであろうか。日本と東京の直線部分の傾きは、世界の他の国とは大きく違っている。この傾きは、𝛽S - 𝛾だから、国情の違いと施策の違いを部分的には反映している可能性がある。民度に由来すると推定される感染率の低さが反映されているとも推察され、他国と異なる検査体制をとっている事も関係しているようにも推定される。観測されている感染者数が実数とは違うと考えられるので、あまり信頼性はない。なお、データ数があまりに少ない部分は夫々の事情があるので、視野に入れなくてよい。
厚労省が示す新型コロナウィルス対策の目的を可視化した図に示す。簡単にまとめれば、「感染スピードを遅くして、感染者数ピークを下げて、医療崩壊を防ぎつつ、犠牲者を少なくする」というものであって、是非とも実現してもらいたい。
その為にどうすればいいかと言えば、感染の初期成長率(𝜆=𝛽S - 𝛾)の大きさを小さくすればよい。それには、感染率𝛽を小さくして、隔離率𝛾を大きくすればよい。例えば人と人が接触する機会を減少させて、なるべく多くの感染者を隔離すればよい。
公式にクラスター対策班が設置されたのは2月25日である。同時に公表された文書(厚労省)の中に、病気の特徴について記した次の一文がある。
「多くの事例では感染者は周囲の人にほとんど感染させていない。 その一方で、一部に特定の人から多くの人に感染が拡大した疑われる事例が存在し」
実際のPCR検査を行う基準は次の図の通り(厚労省:新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第1版 3月17日)。
注目点は、全ての要件項目に「発熱37.5度以上」と「呼吸器症状」が入っていることで、症状四日間持続という条件を加えれば、重い症状と考えられる人だけに検査を行う方針である事がわかります。 この目的に沿ってPCR検査の使い方が限定されます。 即ち、重めの症状あるコロナ患者だけを発見する事をPCR検査の第一の目標として、第二は、その周辺の濃厚接触者を探し出して感染の有無判定に使用するという事になります。これが、クラスター対策と呼ばれるこれまでの感染防止策であるといえるでしょう。大きな疑問が生じます。定性的に言えば次のような疑問です。
「多くの事例では感染者は周囲の人にほとんど感染させていない」のであれば、世界各地で生じている爆発的な感染とは矛盾するのではないか。本論の冒頭に記したように、「発症していない感染者が、自覚しない行動を通じて、次の感染源となってしまう」ので、気付かないうちに大きな感染爆発が生じるのではないか。
もしもクラスター対策がよい結果を出しているのなら、なぜ専門会議は3月19日になって次のように若者に訴えるのでしょうか。
「若者世代は、新型コロナウイルス感染による重症化リスクは高くありません。しか し、無症状又は症状が軽い方が、本人は気づかずに感染を広めてしまう事例が多く見られます。」
一方では、新たなな図を示して、北海道と全国の対策はうまくいっているとしています。感染封じ込めの結果を示すのが下図とされています(全国版)。
図に示されている直近の実効再生産数Rはゼロに近いと読み取れます。この図からは、最近では感染はほとんど力を失っていると推定されます。にもかかわらず、若者を特定して自粛要請をするとは、どうした事でしょう。仮に、この他に局所的に、東京・大阪・兵庫などの都市部において実効再生産数Rの値からみて危ないというデータがあるならば、それを基礎にして、今後の若者の自粛を要請するべきでしょう。示された最も重要な指標Rがほとんどゼロであるにもかかわらず、クラスター対策では追えない人々が増加して危ないと予想するのであれば、そもそもクラスター対策だけに目標を定めた基本方針が誤っていた事になります。クラスター対策と同時に、物言わぬ無症状感染者のあぶり出しを当初から積極的に行わなければならなかった事になります。局所的な東京の市中感染率は調査の結果によればこうなっているので、近未来にはこうなりますなどと測定事実を基礎にしてわかりやすく説明すれば、説得力があるでしょう。現在観測されている「クラスター対策では履歴を追えない感染者」の実数は、誰にもきちんとはわからない不確定な数字です。ある仮定をすれば推定はできるでしょうが。
定性的に考えて、重い症状以外の感染者から次に感染する事はないというのであれば、感染爆発など起こるはずもないし、感染を恐れる必要もない。何故なら、重症患者は隔離され、重症患者とわかれば、人は近づかないからです。
このように、論理的に破綻している会見内容はどうして生じているのか考えてみましょう。
クラスター対策班(あるいは他の政府機関)がPCR検査の要件を決めるときに、コロナという病気に対する認識において、大きな変化が実質的に生じていると思います。次のような事です。専門家会議の見解に記されている公式の認識は次の通り。
「多くの事例では感染者は周囲の人にほとんど感染させていない。
その一方で、一部に特定の人から多くの人に感染が拡大した疑われる事例が存在し」
これが、PCR検査要件を決める認識では、次のように前段部分を読み替えていると推測されるのです。
「無症状あるいは軽症の感染者は周囲の人に感染させていない。
その一方で、一部に特定の人から多くの人に感染が拡大した疑われる事例が存在し」
クラスターつぶしに専念する対策は、この後者の認識を出発点にしていると考えられます。言い換えれば、重症者以外の人々のPCR検査はしない、むしろ積極的に排除するという検査方針は、後者の認識の結果行われているのと同値であるという意味です。従って、クラスターつぶしだけに専念する事は、当初の専門家会議のコロナの感染状況に対する認識とは相入れない方法となっていると推定されます。
クラスター対策の効果は初期状態では大いにあると思いますが、無症状の感染者が多いというコロナの特性の元では、それが最終的に有効であるためには、相当の条件が存在するのではないかと推察します。仮に、これまで無視して来た「無症状あるいは軽症の感染者」の(若者の)影響で、感染爆発の瀬戸際にあるというのであれば、何をか況やということでしょう。無症状あるいは軽症の感染者の影響はなかったが、クラスター対策自体が不十分であったというならば、更に何をか況や。
繰り返される同じ警告、しかも根拠とするデータと矛盾するように感じる発表の仕方による警告を聞いても、それはあまり人々の心に染み込まないものです。人々は慣れてきてしまうものです。緩みが災禍を生むのは常の事です。ひょっとして感染爆発が予測されるのであれば、事前のコントロールされた大規模一斉休業は考慮の余地大ではないでしょうか。
若者がインフルエンザ程度と安易に考えるのは無理からぬ所がある。高齢者と基礎疾患者の致死率が異常に高く、特効薬あるいはワクチンが開発されるまでのある程度の長期間にわたり、現在の対策を続ける限りは、致死率に相当する犠牲者が増加する。それは対策が有効であっても、相当数となる。長期にわたる抑圧された社会環境を回避すると同時に犠牲者の数を激減させる方策は、全国一斉休業である。全世界の多くの国が止むを得ず追い込まれているときに、時を同じくして、行う、如何でしょうや。
本論に関するご意見質問等はメイルしてくだされば有難く存じます。
著者:加藤湖山
e-mail: kozan27ho@gmail.com
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