『昭和天皇実録』に登場する「クロックノール」について

『昭和天皇実録』第一の三八七頁に次の記述がある。

明治四十三年一月十七日

「午後は御用邸内においてジャーマン・ビリヤード、人取り、玉鬼、相撲、クロックノールなど種々のお遊び」

 この「クロックノール」は、私の家族が昭和三十年代の初め頃に遊んでいた卓上ゲームの通称「クロック」と似ているので、他の場所に記述してあったクロックに関する拙文を少し修正して紹介する。我が家ではこのようにして遊んでいたという一例であり、参考に提示したルールブックの遊び方とは異なります。

 我が家の「クロック」は周囲が正方形で、中に円盤があり、大きさは昔の正方形の炬燵にちょうど乗る程度。コマは木製で平面の円盤状、二人ないしは四人で対戦した。四人で行う場合には、相対して座っている者がチームを組むやり方もあった。

 我が家の基本ルールは、自分の領域(円周の四分の一)の端にコマを置き、指で弾いて、コマを中央のゴールにストンと入れる事。ゴールに入ったコマは取り上げて得点とし、ゴールに入らないコマは盤上に残す。敵と味方のコマが盤上にあれば、それらに当てて利用してもよい。敵のコマが部分的に中央のゴールにかかっている時に、反対側から自分のコマを入れようとする時には、自分のコマのスピードが重要となる。適度なスピードの自分のコマが敵のコマを押しのけて、ストンとゴールすると気分がよい。コマがゴールに滑り込む時の微妙な動きがとても面白いのである。スピードが速すぎると、敵のコマを跳ね飛ばすが、自分のコマもうまくゴールには入らない。当たる角度が悪くても失敗となる。

 中央に同心円状に打ってある八本の釘を利用できるようになれば、高級戦術といえよう。こちらから反対側の釘を狙ってコマを放ち、釘で反射させてゴールに入れる。この方法は、敵のコマが邪魔な位置にある時に使える。あるいは、釘に当てて進路を曲げてゴールを狙うなど出来る。又、相手のコマに斜めに当てて外へ打ち出し、同事に角度を変えた自分のコマは中央のゴールを狙うなどの打ち方もあり、これも高級戦術だった。敵の二つのコマの並び方が良い時には、ビリヤード風に、一個のコマで二個の敵のコマを外に追い出す打ち方も出来た。二つの敵コマを追い出して、且つゴールに自分が入るという打ち方も成功したと思う。従って、みかけほど単純なゲームではなく、考えれば考えるほど面白い打ち方と戦術をトライできる複雑な高等ゲームであった。なお、敵のコマを打ち出すだけという単純戦法もあり得たし、カーリングの戦術と同じように、自分のコマを相手の邪魔になるように置くだけという戦術もあった。技術レベルによって、戦術を変える事が出来るゲームであり、四人でプレーする場合、相対する二人がペアとなれば、何手か先を予期して相談しながらプレイする事ができ、勝負としての面白さが増す。しかし、こちらと向こうから打てるので、高級戦術を使う必要性は低くなる。

 ゲームを始める前に、四隅の決められた場所に自分の持ち駒を並べておいたような記憶がある。持ちコマがなくなるとゲーム終了となる。得点は、ゴール数と盤上に残っているコマを数えるが、数え方の細部までは思い出せない。

 このゲームは盤の滑りが重要なので、我が家ではホウ酸の粉で盤を磨いて滑りをよくしていた。高級戦術を使うようになる程、滑りの重要性を知る事になる。

 コマの大きさは、中央にある八本の釘の中で、連続する四本の釘がつくる台形の斜辺に相当する二つのギャップ(台形の二つの斜辺に相当する)をやっとすり抜けられる大きさになっていたと思う。コマを精確な方向に弾く腕前を競い合う簡単なゲームとして、この二つのギャップをすり抜けると得点に数える遊びをよくした。なお、ピンが六本でも同じ遊びができる。ピンの配置とコマの大きさは、こんな関係だったという事。

 お互いに十個のコマをゴール目指して弾き、何個がゴールに入るかという単純な遊び方も行った。先攻後攻を決める時に、コマをゴールめがけて弾いて決めた記憶もある。

 以上、六十年程も昔の事なので、どこかに記憶違いがあるかもしれません。



三十年程前に、我が子と遊ぼうと、新しい「クロック」を買い求めていた。二代目クロックの写真とコマを示す(名前は闘球盤)。
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我が家にあるクロックの二代目モデル。一九九〇年頃買い求めた。

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二代目クロックのコマ。



六十年前に慣れ親しんだ初代クロックと二代目クロックは大分違っているので、相違点を記す。
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闘球盤付属のルールブック。我が家のルールでは、盤上のコマを手に取って取り出した記憶はない。我が家では、いっそう面白く感じるようにルールを変更しながら遊んだようだ。

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昭和三十年代に遊んでいた卓上ゲーム「カロム」。カロムのコマは中央に指が入る穴があいているので、初代クロックの平板な円盤状コマを弾く場合と比べると、弾くスピードは速くでき(バックスィングが出来る)、正確さも格段に向上したと記憶している。なお、ここに示したのは昭和三十年代の初代カロム。一九九〇年頃購入した二代目カロムは、外見は同じだが、コマが軽い素材に変わっており、指で弾く感覚と、コマ同士が衝突した時の振る舞いが変化している。コマが滑りやすくなるように、滑りやすいワックスを盤に塗って、表面を磨いた。カロム本体の下に付いている木枠は、別途製作した木製のふた。ひっくり返すと盤のふたになる。四隅に張られていた網状のネットは壊れやすいので、この形にしてゲームを行った後、カロム本体を持ち上げて、ネットからこぼれ出たコマを拾い上げた。中央四角の升目を使って、チェッカーをして遊んだ。