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明治22年から明治41年までの夏目漱石の秘恋を解き明かします。漱石が残した小説等の文献の中に秘かに組み込まれた謎掛けを明快に解いて、そこから恋人を特定し、「百年の恋」の全貌を記述します。
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2013年11月 version 1.0 公開
夏目漱石の『三四郎』は、およそ百年前の本郷台を舞台に展開された物語である。作中で展開される散策のルートを丹念に追いながら、漱石の他の著作も合わせ読むうちに、漱石が経験した青春時代の秘められた過去のエピソードが、彼の文芸作品の中に埋め込まれているように感じられた。そこで、明治四十一年までの漱石の人生の航跡と、彼の文芸作品・書簡・日記等との比較検討を行った結果、巷では迷路に陥った観がある若き漱石の恋人問題についても、数多くのヒントが見いだされた。本書は、その経緯を詳細に記録し、検討過程で得られた決定的な証拠をもとに、漱石の秘められた恋人を明らかにし、恋人との心理的葛藤の末の明治四十一年の漱石自身の劇的な変化までを解明する。
若かりし頃の漱石の恋人問題と明治二十八年の突然の松山尋常中学校への赴任には、今でも多くの謎が残されており、決定的な解明はなされていないようである。ところが、漱石が英国留学から帰国後に発表した文芸作品の中には、秘かに組み込まれた謎掛けが多数存在する事が認められ、それらの謎解きを行えば、漱石の恋人は特定され、その恋人との恋愛の経過が明解に読み取れる事を見いだした。漱石は、恋人の住所の番地等を作品の中に謎掛けとして折り込み、明治二十四年の再会から明治二十七年までの「男女相思」の期間、「男を捨てた」明治二十八年を数字として秘かに記述していたのである。
若い頃に辛い恋愛体験を経た漱石は、若い女性に対して非常に厳しい見解を持つに至った。漱石のそうした考え方は、明治四十年発表の『虞美人草』の頃まで続くが、明治四十一年に至り、かつての恋人には大きな変化が起こり、それをまじかに感じた漱石自身の気持ちは劇的に変化する。その核心は、直後に急ぎ発表された『夢十夜 第一夜』の中の「百年はもう来てゐたんだな」という悟りに近い感慨に象徴される。漱石の心の中で、かつての恋人が復活したのである。その後の漱石は、かつての恋人との関係を物語のテーマの中心に据え、且つ、温かな筆致で物語を展開する。
本書では、漱石の小説中に秘かに組み込まれた十個に及ぶ謎掛けを解いて、漱石自身の証言により、学生時代の初恋、闇に葬られた明治二十七年の「おどろくべき事」と破談、明治四十一年の『三四郎』執筆に至るまでの漱石の秘恋について解明する。
君は仇し人と百年の契りを籠めさせ給ひしとばかり、怨は永くそれより尽きずこれは楠緒子から漱石への怨みのメッセージであろう。
縦横十文字に自分の心緒を切りさいなんで見るが、其の結果はいつも千遍一律で、要するに分らないとなる。昔しだから忘れちまつたんだ抔と云つては不可ない。此の位切実な経験は自分の生涯中に二度とありやしない。『坑夫』そして、突如自分から去った女に対しては次のように評価していた。
僕も君位な年には霊の感応を担いであるいたものだ。而して其御蔭でもつとえらくなる所をこんな馬鹿になつて仕舞つた。以来は決して霊の感応を担いぢやいけない。ことに女に対して担いぢや大変な事になる。世の中には感応を担がせてひそかに冷笑する様な怖い女が沢山居る。(漱石書簡)
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著者:加藤湖山
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