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易経を理解するために必要な知識を簡単に説明した上で、六十四卦の中から四十卦を選び、少しの解説と筆者の感想を付与しました。易経は君子への教えとして記されている書ですので、主として、現代の政治社会への有用な教えという視点にたって、まとめてみました。
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2020年12月 version 1.0 公開
易経は君子への教えとして記されています。三千年前に、君子は政治社会のリーダー的な立場にいた人々でありましょう。従って、易経の中には政治社会の機微に関する記述が豊富です。君子たらんとする方は学ぶべき道しるべとして、君子なにするものぞと考える方はそれなりの参考とすべく、本書から一部を抜粋して以下に記します。(横書きにすると卦の画像の表記に不具合がありますが、ここでは空欄のままに致します)
こんな具合で、とにかく逃げる卦ですね。こうした世の中に生まれてしまった君子はどうしたらよいのか。象伝にはこう記されています。天山遯は、上卦乾を天とし、下卦艮を山とする。天の下に山あり。山は止まり動かず、天の気は上り進んで止まらず。これは天の遯れ避ける意がある。
陰は小人の道、陽は君子の道。小人の道長じ、君子の道は消え、小人浸み長じ、君子は遯れ退く。
下卦の艮は山、上卦の乾を君子とすれば、君子が山中に隠遯する象。
象曰。天下有山遯。君子以遠小人。不悪而厳。
象に曰く、天の下に山有るは遯なり。君子以て小人を遠ざけ、悪まずして厳にす。
【大意】
上卦乾を天とし、下卦艮を山とする。天の下に山ありとは、山は止まり動かず、天の気は上り進んで止まらない。これは天の遯れ避ける意あり。天はあくまで高く、下の山は天の高きに遠く及ばない。両者の間には厳とした隔たりがある。この卦象に則り、君子は、浸み長じる小人を懲らしめようとするのではなく、小人を遠ざけるのがよい。小人を憎んで遠ざけるのではなく、厳しく自分を守ればよい。そうすれば小人はおのずと遠ざかり、危害を受ける惧れもない。
という内容ですから、改革や革命を意味します。 不思議な事に、いや実際には不思議でも何でもないのですが、「改革改革」と唱える者あれば必ずや改革反対の一大勢力の存在が目に映ります。そんな事からつぶされた改革運動など数えればきりがないくらいです。 三千年の昔、易経の中では本文に次のように記述されています。「故きを去りて新しく革める」、
「両立し難いものが争って、そこから変化が生まれる」
複数の解釈がある文ですが、次の解釈がわかりやすいと思います。革。已日乃孚。
革は已る日にして乃ち孚とせらる。
改革の結果としてもたらされる利益がはっきりしなければ、人々はなかなか信じないものだということですね。多数決の民主主義のもとは改革があまり進まない所以です。已日は、改革して功成り事を遂げた日をいう。改革しようとする始めには、人をそれをよしと信じないものである。改革が目に見える形になり、自他の宜しきに合えば、その時になって初めて信じて服する。
江戸時代の有名な易の大家の真勢中洲は具体的な例をあげて解説を加えているので、全文を現代文に訳して参考に提示します。象曰。火在水上未済。君子以慎弁物居方。象に曰く、火水上在るは未済なり。君子以て慎みて物を弁じ方に居く。
【大意】
下卦坎を水として、上卦離を火とする。水は下に在って流下し、火は上に在って炎上するので、水火未だ交わらずの象である。水と火の上下の配置から既済と未済が分別するを見て、君子は慎重に物事の置き方を弁別して、各々宜しき位置に置くことを肝要とする。
小人に関する言葉を引用しましょう。君子と小人がいるとしよう。君子が上の位置に居て政治を行い、小人を下に置いて国事を従い行わせる時には、君子と小人は共にその居場所を得て、安心して務めを果たすので、これは国家が栄える姿である。
小人が上に居て権勢を奮い利権を貪り、君子を下に屈服させて、その徳を隠し、明知を隠させる時には、小人君子共にその居場所を得ずして、共に安心することは出来ない。これは世が乱れて暗黒の姿である。このことは、君子と小人とを上下に入れ替えるだけで、国が乱れる分かれ目になる事を示している。
故に、君子は慎重に物事の置き方を弁別して、各々適当な位置に置くことを肝要とする。
小人:過ちを犯し、それが人に知れわたるのを恐れて、巧言令色、言葉巧みに覆い隠そうとする吝な心を持つ人。私情に溺れるか強引な態度をとる人。国を乱す邪悪な姦人。悦楽を以て人を溺れさせ、巧言を以てへつらう人。
子曰く、小人は不仁を恥じず、不義を畏れず、利を見ざれば勧まず、威さざれば懲りず。小しく懲りて大いに誡しむ。此れ小人の福なり。易に曰く、校を履きて趾を滅す、咎无しとは此を之れ謂うなり。(注:反省して罪を重ねなければ許しましょう)
善も積まざれば以て名を成すに足らず、悪も積まざれば以て身を滅ぼすに足らず。小人は小善を以て益无しと為して、而して為さざるなり。小悪を以て傷う无しと為して、而して去らざるなり。故に悪積みて掩う可からず。罪大にして解く可からず。易に曰く、校を何いて耳を滅す、凶なり。(注:首かせで締められて耳が痛んでもやむなし)
象伝はこう云っています。否の上卦乾は天気上昇し、下卦坤は地気が下降するので、陰陽交ることなく、否塞を意味する。小人が時を得て盛んになり、君子は日夜衰えて行き、人の道を正しく行える時ではない。しかし、内卦と外卦で時運を分かつ卦であり、否の中に泰が生まれ、終には否は傾き、泰通に至らんとする。
象曰。天地不交否。君子以倹徳辟難。不可栄以禄。
象に曰く、天地交らざるは否なり。君子以て徳を倹ましくして難を辟け、栄するに禄を以てす可からず。
【大意】
天の気と地の気とが交わらず否塞するのが否である。このような時にあたり、君子はその徳を収斂して外にあらわさず、もって小人による難を避ける。爵禄を以て栄誉としてはいけない。小人がはびこる否の時代に禄仕するはよろしくない。
◯語句上九。碩果不食。君子得輿。小人剥廬。
上九は碩果食らわれず。君子は輿を得、小人は廬を剥す。
【大意】
上九は陽剛居極。一つだけ残る高い木の上の碩いなる果が食らわれないように、超然と高山に隠棲している君子は、衆陰の小人跋扈する世の中に生き延びて、いつの日にか必ずや勢いを得るであろう。その時、君子は車に乗せられて多くの人に推戴され、小人は家の屋根を剥ぎとられるごとく、居場所がなくなる。
歴史を振り返れば、学術関係者が時の権力者から迫害される事件は、名高い秦の焚書坑儒を始めとして、数しれずあります。ようやく近代ヨーロッパにおいて基本的人権の枠組みとともに、学問の自由、思想信条の自由、表現の自由などが確立されましたが、世界全体の現状を見渡せば、これらの権利が充分守られているとは言い難い。基本的人権は普遍的価値とは考えないという、歴史の逆行が進む事例もみられます。日本はと云えば、非常な艱難辛苦の末に手にしたにも拘らず、基本的人権の有りがたさを実感しえないという弱みがある。「どこからみても学問の自由の侵害にはあたらない」という類いの言葉が平然と発せられる所以でしょうか。かつての滝川事件、天皇機関説事件などと並んで、歴史に悪名を残す事を自覚しているのかどうか。学術会議推薦の候補者百余名中の六人を首相が任命拒否した。
力足らずして徳に於いても欠けるところある小人が社会の高位に就いているのは正しくないし、又世を誤り、民を苦しめる基であるから、決し去るべきであると、易はみているようです。上六。无號。終有凶。
上六は號ぶこと无かれ。終に凶有り。
【大意】
上六は陰柔居極。威権をほしいままにした小人で、一陰がまさに決し去られようとする卦の極に在る。大声で叫び泣き救いを求めても無駄であり、遂には滅亡して凶である。
象曰。无號之凶。終不可長也。
象に曰く、號ぶこと无きの凶は、終に長かる可からざるなり。
【大意】
「无號之凶」とは、その運命が長かろうはずがないという事である。
こうした解説を読むと、印象的なシーンが思い浮かびます。❍ 一陰の小人は上爻に位している。
❍ 巧言令色を以て深く九五の君に密比して、寵愛はなはだしき者。
❍ 城狐社鼠の者(君側の奸臣)にて、取り除きにくい。
❍ 小人の姦巧黠俐謀詐敏慧なることは、君子より余程勝れているので、威権をほしいままにして、そこに擦り寄る党は必ず広く多い。
❍ 小人の罪状をつぶさに王庭にあらわし披露して、その罪の次第をあまねく公明にすべし。
❍ 誠信の忠誠を以て同志の言葉を合わせて相集まり、連署して公所に告げ上り、これを誅戮すべし。
小人の姦巧黠俐謀詐敏慧なることは、君子より余程勝れているので、威権をほしいままにして、そこに擦り寄る党は必ず広く多い。
◯語句九四。鼎折足。覆公餗。其形渥。凶。
九四は鼎・足を折る。公の餗を覆えす。其の形渥たり。凶なり。
【大意】
九四は陽剛不正。この卦の二三四爻は鼎の実であり、四では実が充満していて重い。支えるのは応爻である初六だが、柔弱にして重さに堪えず、足を折ってしまう。鼎は覆えり、天帝を祀り聖賢を養うためのごちそうも、ひっくり返る。
これを推して云えば、九四の宰相は己れの才力徳量を測らずして、妄りに国家の大任に当たり、表は陽爻賢良のフリをするも、内に不中不正の志と行いを以て任意随情に斡旋し、初六陰柔不才不中不正の小人を寵用する。これを以て国家の鼎と万民の餗を転覆する。その責と罪とは逃れ得るべからず。極刑たるの凶になる。
象曰。覆公餗。信如何也。
象に曰く、公の餗を覆えすとは、信に如何せん。
【大意】
「覆公餗」とは、この時ここに至っては実にこれを如何ともする事なし。
及ばざること鮮し:禍に及ばないことは少ない。子曰く、徳薄くして位尊く、知小にして謀大に、力小にして任重ければ、及ばざること鮮し。易に曰く、鼎足を折り、公の餗を覆えす。其の形渥たり、凶なりと。其の任に勝えざるを言うなり。
著者:加藤湖山
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